ARTIST
INOKUCHI TAKAKO
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漆芸家井ノ口 貴子
INOKUCHI TAKAKO・Lacquer artist
英語では、漆のことを Japanese lacquer と言います。
漆器の事を Japan ware または Japan と呼んだりします。陶器の事を China と呼ぶように。
陶器が中国以外の国でも多く作られている様に、漆器も日本以外の国でも多く作られています。でも Japan と呼ばれてしまう・・・それだけ、
漆芸と日本文化とのつながりの深さを、世界が認めている・・・と言う事かな・・・なんて思ったりしています。
伊豆高原のギャラリー、並んでいる光り輝く漆器の数々を興味深く拝見していると「どうぞ、持ってみてください」と声をかけられた。振り返れば優しそうな目をした女性が…。勧められ、思い切って小ぶりのお皿を手に取ってみると「うわっ、軽~い!」重厚感ある見た目に反して、その軽さに衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。
「小鉢」
「すごく軽いでしょう、でもとても丈夫なんですよ。これは“乾漆”という技法で作られています。粘土や石膏で作った型に麻布と和紙を漆で貼り重ねて固め、その後、型を取り除いて造形します。とっても手間のかかる技法ですが、木を使うよりも自由な造形ができて、しかも軽くて丈夫。興福寺の有名な阿修羅像も乾漆造なんですよ。」笑みを浮かべながら気さくに話しかけて下さった、その女性が井ノ口貴子さんだった。
工芸に進む
父がいすゞベレットの開発に携わったカーデザイナー、母が金属造形作家。そういう環境で育ったおかげで自然と美術の方を向いて進んできた。そして、デザインにするか、工芸にするか…進路を選ぶ時がやってきた。
「デザインにはクライアントの存在があって、その意向がありますよね。自分はデザイナーとしてクライアントの話を聞きながらやっていくタイプではないと思います。工芸はすべてを自分ひとりでやって仕上げる。そこがいいと思って工芸を選びました。」
初めて知った、漆
もともと素材としていちばん興味を抱いていたのはガラスだった。しかし、当時の芸大にはガラス造形はなかった。入学していろんな分野の工芸に触れることになったが、実習した鍛金・彫金・鋳金・染織・陶芸は自分には合ってないな、と感じていた。漆についてはお椀とかお重とかの素材というイメージしかなかったので特に興味を持っていなかったのだが…。たまたま漆を実習するときの課題が、“乾漆”で昆虫を作るという課題だった。麻布を貼って形作っていくときに、ハッとさせられた。
「あっ、漆ってこういうこともできるんだ。好きな形が作れる、これができるなら、何でも作れる!」
「作品」
“乾漆”の良さ
立体の造形物を作りたいと思っている井ノ口さんは、漆芸の技法のうち”乾漆“技法での制作が肌に合っていると感じて作品を作っている。女性ならではの流麗な曲線で形作られる作品は、まさに”乾漆”の魅力を伝えてくる。そして、軽さ・丈夫さも食器としての“乾漆”の大きな長所である。電子レンジや食器洗い機での使用を控える等の最低限の取り扱い上の注意を守れば、末永く使えるものである。
「作品」
思いが受け継がれていく
器は、作家の手から離れても成長していくものだと思っています。暮らしの中で使い込むとともに味わいが増していきます。時間を重ねれば重ねるほど、見た目だけではなく、手にした馴染み具合や口当たりも変化していきます。それはまるで、作り手の思いが使い手に受け継がれ、使い手が作り手となって器を育てていくようです。
井ノ口貴子は、そんな器を作っています。
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